2019年6月9日(日)


2019年6月8日(土)日本経済新聞
社債発行年限 進む長期化 緩和で高利回り需要 50年債、JR東も
(記事)



2019年4月23日(火)日本経済新聞
在任中、時価総額を増やした社長 ニッチ追及 財務指標重視
首位ワークマン 作業服に磨き 3位のピジョン 運転資本圧縮
(記事)



2019年4月30日(火)日本経済新聞
企業磨く ファンド進化論
(記事)





三菱地所株式会社が国内初の50年債を発行する、という事例の記事とプレスリリースを紹介した時のコメント↓。

2019年5月6日(月)
http://citizen2.nobody.jp/html/201905/20190506.html

 


2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計172日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜2019年4月30日(火))
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

各コメントの要約付きの過去のリンク その2(2019年5月1日(水)〜)
http://citizen2.nobody.jp/html/201905/PastLinksWithASummaryOfEachComment2.html

 

 


【コメント】
今日紹介している3本の記事を題材にして、会社制度や証券制度の論点について一言だけコメントを書きたいと思います。
まず、紹介している1つ目の記事についてですが、近年に発行されている社債の発行年限が長期化する傾向にある、
という内容なのですが、2019年5月6日(月)のコメントでは三菱地所株式会社の事例(50年債の発行)を紹介しました。
この時のコメントでは、
"An extreme example sometimes tells you an important fact."(極端な例を見ると重要な事実に気付くことがある。)
と書いたわけですが、一言で言えば「50年後の発行者の支払能力(50年後の社債の償還可能性)について
判断することは不可能である。」というようなことがこの時は頭にありました。
「仮に現在の経営環境が継続し今後も業績が同じ水準で推移するとするならば。」と仮定を置いて社債の償還可能性について
判断をすることができるのは、現実には最大でも10年くらい先の将来までのことになるでしょう。
経営環境の変化が激しい業種業界では、5年先の将来のことを予想することすら現実には不可能でしょう。
50年物の社債というのは、もはや償還のことを合理的・計画的に考えた上で発行された社債であるとは言えない、
という見方をせねばならないと思います。
少人数私募債など発行者やその業務執行者のことを十分に知っている人物(知己)に社債を引き受けてもらうのであれば別ですが、
不特定多数の投資家に社債を引き受けてもらうという場合は、投資家保護の観点から(社債の流動性の低さ等も鑑みて)、
社債の償還までの年数に証券制度上制限を課する(償還までは「10年以下とする」等)、という考え方もあると思います。
ただ同時に、社債が市場に上場しているなど、社債の流動性が証券制度上一定以上確保されている場合は、
現在では清算期日の定めがない株式が市場に上場しているという事実が対照事例として参考になると思いますが、
社債の償還までの年数に証券制度上制限を課する必要はない、という考え方もあると思います。
さて、50年債となりますと、その社債が償還される時の業務執行者は発行時のその人とは異なる業務執行者ということになります。
若くして会社を立ち上げた創業者でさえ、50年間業務執行者(社長や取締役等)をすることは現実にはまずないわけです。
そうしますと、「発行者が社債を償還し切れなった(債務不履行)時の責任は誰にあるのか?」、が問題になります。
「取締役は会社債務の連帯債務者である。」という法制度の場合、社債の連帯債務者となるのは償還時の取締役なのか、
それとも、発行時の取締役なのか、という問題が現実に生じ得ます。
通常は、「償還時の取締役」が社債の連帯債務者である(後任の取締役は過去の会社債務の発生に関しても責任を負う)、
という考え方になる(取締役候補者は就任時に会社債務の状況について十分に精査・認知・承知しなければならない)と思います。
同時に、会社債務のより直接的な発生原因に着目すれば、「発行時の取締役」も社債の連帯債務者であるという考え方になるでしょう。
「取引時(社債の引き受け時)、債権者(投資家)は、会社(発行者)の登記簿を見て『誰が会社債務の連帯債務者であるか。』
を確認して(すなわち、連帯債務者の支払能力をも勘案した上で)会社と取引を行った(社債を引き受け債権者となった)。」、
という点に重点を置くならば、会社債務の連帯債務者は「発行時の取締役」という結論になるでしょう。
逆に、「社債の主たる債務者はあくまで発行者であり(社債は連帯債務ではあるが第一にはやはり発行者が償還するべき債務である)、
また、取締役の交代は事業継続の上はあり得るということを承知した上で、後任の取締役が連帯債務者になることを前提に
債権者(投資家)は会社と取引を行った(社債を引き受け債権者となった)。」、
という点に重点を置くならば、会社債務の連帯債務者は「償還時の取締役」という結論になるでしょう。
この文脈では、後任の取締役の利益を保護することを考える必要はないため(債権者保護のことを第一に考えるべきでしょう)、
「償還時の取締役」を社債の連帯債務者とすることは何ら問題はないと私は考えますが、
「債権者はまず第一に誰のことを信頼したのか?」(連帯債務者の変動は債権者の利益に大きな影響を及ぼす)
という点を鑑みますと、「発行時の取締役」を社債の連帯債務者とすることも現実には非常に重要だと私は考えます。


 


他の観点から見ますと、後任の取締役は会社が社債を発行できるように業務を執行しなければならない、
すなわち、前任の取締役は退任後は会社の業務を執行していない(会社の支払能力は専ら後任の取締役の業務執行に依存している)、
という点に着目するならば、会社が社債を償還できなかった原因は後任の取締役にあるということになりますので、
会社債務の連帯債務者は「償還時の取締役」という結論になるでしょう。
民法理から考えてみると、債務の発生時の連帯債務者と債務の履行時の連帯債務者は債権者の同意がない限り
同じでなければならない(すなわち、「発行時の取締役」により大きな責任がある)、という結論になるでしょう。
また、商法理から考えてみると、会社による社債の償還可能性を維持・増加させる責務を後任の取締役は当然に負っている
(すなわち、「償還時の取締役」により大きな責任がある)、という結論になるでしょう。
どちらの考え方も理に適っており絶対的な結論はないと私は考えますが、現実的対応として債権者保護の最重点を置くならば、
「発行時の取締役」と「償還時の取締役」の両方を社債の連帯債務者とする、という考え方に法制度上はなるでしょう。
次に、紹介している2つ目の記事についてですが、株式時価総額は会社の利益額を反映しているということを所与のこととしますが、
記事の内容を踏まえますと、「会社の利益(業績)は、誰が社長(業務執行者)であるかで変動する(取締役に依存する)。」、
ということをこの記事は意味していると思います。
「会社の利益(業績)は、誰が社長(業務執行者)であるかで変動する(取締役に依存する)。」というのは、
現実的なことを鑑みればある意味当たり前のことであると言えますし(誰が取締役でも利益・業績は同じであるとは全く言えない)、
また、先ほどの議論しましたように、誰が業務執行者であるかで会社債務の履行可能性が現実に変動するわけです。
現実的なことを鑑みれば、「会社の利益(業績)は、誰が社長(業務執行者)であるかで変動する(取締役に依存する)。」
という結論に反論や異議はないと思うのですが、1999年以前の伝統的な証券制度では、理論に重きを置いていたということなのか、
「会社の利益(業績)は、誰が社長(業務執行者)であっても不変である(取締役に依存しない)。」
(つまり、社長の交代では会社の利益(業績)は変動しない。)ということを制度上の前提にしていた、と言っていいのです。
そして、1999年以前の伝統的な証券制度におけるこの結論を対照事例として参考にしますと、この理論に基づけば、
「社債の償還可能性は、誰が社長(業務執行者)であっても不変である(取締役に依存しない)。」
(つまり、取締役の交代では社債の償還可能性は変動しない。)という結論に辿り着きます。
この結論から考察を進めますと、先ほどの議論では、会社債務の連帯債務者は「発行時の取締役」という結論になるでしょう。
なぜならば、これらの理論と結論に基づけば、社債が償還されないことは社債の発行時に既に決まっていたことだからです。
例えば、後任の取締役は頼まれて短期間のみ就任する約束で、清算人よろしく会社の残務整理を行っていただけかもしれないわけです。
現実的なことを考え出しますとキリがありませんが、「債権者は『発行時の取締役』の会社の業務の執行能力と
さらには万一の際の支払能力(連帯債務の履行能力)を信頼して会社と取引を行った(社債を引き受け債権者となった)。」、
という点を鑑みますと、会社債務の連帯債務者は「発行時の取締役」である、という考え方にやや分があるように私には思えます。
次に、紹介している3つ目の記事についてですが、記事で取り上げられています1919年創業の老舗企業「日本オイルポンプ」では、
2004年に創業家が株式を手放して以降投資会社が3度も株式を転売した、とのことですが、
株式の転売(支配株主の異動)に伴う経営陣の刷新については記事にはあまり言及がありません。
記事を読みますと、投資ファンドによる買収後に新しく就任した社長と株主(投資ファンド)との間には不協和音が生じています。
買収後、投資ファンドは熟練の従業員に社長に就いてもらったようなのですが、「意思決定機関の支配」ということを鑑みれば、
株主は自分の意向がそのまま通る人物を業務執行者にする、というのが企業買収における基本的考え方であるように私は思います。
極端なことを言えば、企業買収は委任ではない(企業買収とは株主が自分で経営を行うことである)からです。


If one president can increase profits of a company, then another president can decrease profits of the company.

ある社長は会社の利益を増加させることができるとするならば、
別の社長は会社の利益を減少させてしまうことがあり得る、ということになります。