2019年8月14日(水)



「ゼミナール 金融商品取引法」 大崎貞和 宍戸善一 著 (日本経済新聞出版社)

第4章 流通市場における情報開示
1. 法定継続開示制度
(3) 真実性担保のための制度
(4) 継続開示の内容
有価証券報告書
【ハード情報とソフト情報】
半期報告書
「114〜115ページ」 

「116〜117ページ」 

 


Approximately 27 percent of an Annual Securities Report of Aflac Incorporated is written in English.
Financial statements can't be interpreted into another language than the mother tongue
or they must be in accordance with accounting standards of the mother country.
For example, a Japanese company issuing an American Depositary Receipt of the original share
has identified itself with a U.S. company in U.S through and through.

米アフラックの有価証券報告書の約27パーセントは英語で記載されています。
財務諸表は、母国語以外の別の言語に翻訳することはできないのです。
すなわち、財務諸表は、母国の会計基準に従わなければならないのです。
例えば、原株式の米国預託証券を発行している日本企業は、米国では徹頭徹尾米国企業に成りきっているのです。


 


2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計239日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜2019年4月30日(火))
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

各コメントの要約付きの過去のリンク その2(2019年5月1日(水)〜)
http://citizen2.nobody.jp/html/201905/PastLinksWithASummaryOfEachComment2.html

 

 



米アフラック、東証に上場廃止申請を発表

米保険大手のアフラック・インコーポレーテッド(AFLAC、8686)は14日、東京証券取引所に上場廃止を申請すると発表した。
8月下旬ごろに上場廃止申請書を提出する予定としている。
上場廃止の決定後、整理銘柄に指定され、10月上旬ごろに上場廃止となる見込み。
同社は1987年に東証に上場したが、同社株の取引量が少なく上場の意義が薄れていた。
取引量の大半を占めるニューヨーク証券取引所での上場は維持する。
同社は昨年4月に日本事業を米国法人の支店から日本法人のアフラック生命保険に変更している。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
(日本経済新聞 2019/8/14 9:03)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXLASFL14HAH_U9A810C1000000/

 

 

アフラックは上場廃止を決議との発表に反応薄く高いまま推移

アフラック<8686>(東1:東証第一部外国株)は8月14日、11時にかけて5540円(50円高)まで上げる場面を
見せて堅調に推移している。保険の世界的大手で、同日朝、「上場廃止申請に関する取締役会決議について」を発表したが、
特段、売りが増える様子はないようだ。
 発表によると、13日(米国時間)に、同社の取締役会において、東京証券取引所における同社普通株式の上場廃止
を申請することを決議した。8月下旬頃に上場廃止申請書を提出する予定。
原則として上場廃止決定から1ヶ月後の10月上旬頃(見込み)に上場廃止となる予定。
今回の上場廃止による日本事業への影響はなく、今後も引き続き日本事業を強化していくとした。
(株式投資情報 2019/8/14 11:35:09)
ttp://media-ir.com/news/?p=62481

 

 

「東京証券取引所での米アフラック株式に付いた株価とその日の出来高」


「ニューヨーク証券取引所での米アフラック株式に付いた株価とその日の出来高」

 

 


重複上場をしていたのだが一部の証券取引所からは上場を廃止した、という事例を2つ紹介します↓。

 


ANAHD、ロンドン証取の上場廃止を申請

ANAホールディングス(HD)は1日、英国のロンドン証券取引所(LSE)に上場廃止を申請すると発表した。
同日に申請し、2017年1月初旬をめどに上場廃止になる見通し。欧州路線を拡充していた1991年に現地での知名度向上を狙いに
上場したが、近年は売買高が少なく、「上場維持の意義が薄れた」(同社)という。
LSEに上場する日本企業の数は10年前には20社を超えていたが、開示基準の厳格化や売買高の減少で2000年代後半から
上場を廃止する企業がじわじわと増加。13年にはTDK、14年にはソニー、富士通、15年には三菱商事が撤退。
10月末時点で残るのはANAHDのほか、トヨタ自動車や三菱電機など6社のみになっていた。
世界取引所連盟(WFE)によると、10月末時点でLSEの株式時価総額は世界の取引所で7位にとどまる。
日本企業のほかにも上場を廃止する外国企業が増えており、外国企業の上場数はグループ全体で487と1年前に比べて8%減った。
世界の取引所再編が進む中、今年初めにはドイツ取引所との合併に合意。欧州連合(EU)の独禁法当局などが調査中だ。
(日本経済新聞 2016/12/1 16:21)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01HG5_R01C16A2000000/

 


岩谷産、名証1部の上場廃止を申請

岩谷産業(8088)は25日、名証1部の上場廃止を名古屋証券取引所に申請すると発表した。
同社は東証1部と名証1部に重複上場しているが、名証上場の廃止で管理コストの軽減や事務の合理化を図る。
7月31日に上場廃止を申請する予定。受理された後は手続きを経て整理銘柄に指定され、
原則として指定から1カ月後に上場廃止となる。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
(日本経済新聞 2019/7/25 15:40)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXLASFL25HJ4_V20C19A7000000/

 

2019年7月25日
岩谷産業株式会社
名古屋証券取引所市場第1部における当社株式の上場廃止申請に関するお知らせ
ttp://www.iwatani.co.jp/img/jpn/pdf/infomation/2071/2019072503_oshirase.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)



 



それから、日本国内において東京証券取引所と地方の証券取引所の両方に重複上場することが
いかに無意味であるかがよく分かる記事がありましたので紹介します↓。

 

売買少なくて…「鉄道銘柄」半減 名古屋証券取引所

 名古屋証券取引所に上場する「鉄道銘柄」が急減している。25日には近鉄グループホールディングス(HD、本社・大阪)が、
名証1部上場をやめると発表。2013年の南海電気鉄道(大阪)、15年のJR東日本(東京)に続く動きで、
直近5年で計6社あった鉄道会社は半減することになる。
 近鉄グループHDによると、上場廃止は12月上旬ごろの見通し。年間80万円ほどかかる上場費用を節約し、
事務負担も軽くする。ここ1年間の名証における近鉄株の取引は3千株で、
重複して上場する東京証券取引所の8300万株と比べて極端に少ないことが判断を後押ししたという。
 鉄道やタクシー、名古屋駅前の「近鉄パッセ」など東海経済との結びつきは深いが、
「名証上場以外でも地域に貢献できることがあるはずだ」(総務部)としている。
 名証上場の鉄道会社は、名古屋鉄道とJR東海、JR西日本の3社になる。
(朝日新聞 2018年10月30日08時52分)
ttps://www.asahi.com/articles/ASLBT5470LBTOIPE01R.html

 

近鉄グループホールディングス株式のここ1年間の東京証券取引所における取引は8,300万株である一方、
重複して上場する名古屋証券取引所における取引は3千株であるとのことです。
出来高の差は27,667倍です。
名古屋証券取引所に重複上場する意味が全くない理由がこのことから分かると思います。
また、米アフラック株式のニューヨーク証券取引所における1日平均の出来高は約2,471,776株である(過去3ヶ月間の平均)一方、
米アフラック株式の東京証券取引所における1日平均の出来高は約1,000株となっています。
出来高の差は約2,471倍です。
国が異なりますと市場に参加する投資家自体が異なります(米国人投資家の中で、米アフラック株式を東京証券取引所で
取引している投資家はほとんどゼロでしょう。米国人投資家は米アフラック株式をニューヨーク証券取引所で取引します)ので、
国内で重複上場している近鉄グループホールディングス株式の出来高ほど差は極端ではない
(逆から言えば、日本人投資家の中で米アフラック株式を東京証券取引所で取引する投資家は一定数はいる)のですが、
それでも、それぞれの出来高の差は約2,471倍となりますと、株式を上場させている米アフラックの立場から見ますと、
自社株式を東京証券取引所に上場させている意味はほとんどない、という見方になるわけです。
それから、話が少しだけ脱線しますが、一般に「重複上場」という時には2つの意味合いがあると言えると思います。
@原株式そのものが複数の証券取引所に上場していること(米国以外の外国の証券取引所への上場も含む)と、
A原株式と原株式の米国預託証券とが(それぞれ別の、計2箇所の)証券取引所に上場していることの2つです。
投資家は、上記@においてある証券取引所で購入をした株式は重複上場している別の証券取引所でも売却をすることができますが、
上記Aにおいて一方の証券取引所で購入をした株式は重複上場している他方の証券取引所では売却をすることができません。
上記Aの場合、投資家は購入をした証券取引所でしか株式を売却できないのです。
その理由は、端的に言えば、原株式と原株式の米国預託証券とは権利内容が同じなだけの別の有価証券だからです。
米国の証券制度から見れば、原株式の発行者は日本企業ですが、原株式の米国預託証券の発行者は米国企業なのです。

 



話を元に戻しますと、一般的な話をすると、投資家保護の観点から、一旦証券取引所に株式を上場させたならば任意の上場廃止は
決して行うべきではないのですが、最近では証券会社のサービス拡充・顧客対応が進んだ結果、
日本にいたままでも例えばニューヨーク証券取引所に上場している株式を容易に取引ができるようになっています。
つまり、このたびの上場廃止を受けても、米アフラック株式を売却する機会が奪われることになる投資家は日本に1人もいない、
と言っていいわけです。
日本人投資家にとって、米アフラック株式の東京証券取引所からの上場廃止の影響は事実上ないのです。
そしてそのことは、例えば米国企業が東京証券取引所(の「外国株」の区分)に株式を上場させる必要は全くない
ということを意味します。
インターネット技術の発展に伴い、米国上場企業にとって現時点で既に全ての日本人投資家が容易に自社株式を買える
という状態にあるわけです。
米国企業が日本人投資家に自社の株主になってもらうためのインフラストラクチャーは既に十分整備されているのです。
他の言い方をすれば、米国企業が日本からの投資を呼び込むためのインフラストラクチャーは既に十分整備されているのです。
米国企業が日本の証券取引所に株式を上場させるのではなく、
日本人投資家にインターネットを通じて米国の証券取引所まで来てもらう、という考え方が重要なのです。
敢えてこのたびの上場廃止の問題点を挙げるならば、上場廃止後は日本語で書かれた法定開示書類が日本(EDINET)では
提出されなくなることであると思います↓。


H31.04.19 10:40
AFLAC Incorporated
有価証券報告書
(EDINET上と同じPDFファイル)



例えば、日本語で書かれた米アフラックの有価証券報告書は上場廃止後はEDINETには提出されなくなります。
そのことは、「ディスクロージャー」によって投資家の利益を保護することを旨とする証券制度に反する部分があります。
「米アフラックは日本の証券規制に従って日本語で書かれた法定開示書類を日本で提出することになっている。
だから、私は米アフラック株式に投資をした。」と主張する日本人投資家がいてもおかしくはないわけです。
確かに、日本語で書かれた法定開示書類が上場廃止後は提出されなくなることは投資家の利益に反する部分があるでしょう。
しかし、そもそもの話をすれば、どの外国企業も母国の法律に従って事業を営んでいるわけです。
たとえ法定開示書類が日本語で書かれていても、外国企業の母国の法律を十分に知らなければその意味は分からないのです。
また、株主総会の運営(決議事項等)や組織再編行為の実施その他、会社運営の根幹に関わる部分というのは
その外国企業の母国の法律に従うことになります(この問題点は米国預託証券にもそっくりそのまま当てはまります)。
その外国企業は、株主に外国人がいようがいまいが、事業運営上最後の最後は母国の法律に従うのです。
一言で言うならば、日本語に翻訳しても法律が変わるわけではないのです。
端的に言えば、「ディスクロージャー」の部分だけを日本語にしても、実は投資家は十分な投資判断はできないのです。
「ディスクロージャー」というのは手段に過ぎません。
投資家が十分な投資判断を行うためには、法定開示書類に記載されている意味・内容を理解しなければならないのです。
法定開示書類に記載されている意味・内容を理解するためには、法定開示書類が日本語で記載されているだけでは不十分なのです。
どんなにインターネット技術が発達しても、言葉の壁と法律の壁を乗り越えるのは投資家自身なのです。
現在米アフラックの株式を保有している日本人投資家は、英語と米国の生命保険制度と米国の会社制度に十分に精通しているはずです。
そうでなければ、その日本人投資家は米アフラック株式に投資をしたりはしなかったでしょう。

 

 



Share price put on an Aflac Incorporated Share
and the total number of the shares traded in each operating day at Tokyo Stock Exchange.

東京証券取引所での米アフラック株式に付いた株価とその日の出来高

 

Share price put on an Aflac Incorporated Share
and the total number of the shares traded in each operating day at New York Stock Exchange.

ニューヨーク証券取引所での米アフラック株式に付いた株価とその日の出来高

 

When Japanese investors in Japan trade a listed share of a Japanese company, please pay attention to the following.
You can sell a share at Tokyo Stock Exchange which you bought at Nagoya Stock Exchange,
and also, you can sell a share at Tokyo Stock Exchange which you bought at London Stock Exchange,
whereas you can't sell a share at Tokyo Stock Exchange which you bought at New York Stock Exchange.
For a share listed and traded at Tokyo Stock Exchange, Nagoya Stock Exchange and London Stock Exchange
is all the original share,
but a share listed and traded at New York Stock Exchange is an American Depositary Receipt of the original share.
As long as the original share itself is listed and traded at respective stock exchanges,
you can sell the share at any stock exchange of all the stock exchanges.
But, in case an American Depositary Receipt of the original share is listed and traded at a stock exchange,
you can't sell the share at any other stock exchange (i.e. you can sell the share at the very stock exchange only).
Listed and traded at any stock exchanges, the original share is the original share,
but an American Depositary Receipt of the original share is other securities than the original share.

日本にいる日本人投資家が日本企業の上場株式を取引する時は、以下のことに気を付けて下さい。
名古屋証券取引所で買った株式を東京証券取引所で売却することはできますし、
また、ロンドン証券取引所で買った株式を東京証券取引所で売却することもできますが、
ニューヨーク証券取引所で買った株式を東京証券取引所で売却することはできません。
というのは、東京証券取引所と名古屋証券取引所とロンドン証券取引所に上場され取引がなされている株式は
どれも原株式なのですが、ニューヨーク証券取引所に上場され取引がなされている株式は原株式の米国預託証券だからです。
原株式そのものが各々の証券取引所で上場され取引がなされている限り、その全ての証券取引所のうちどの証券取引所でも
原株式を売却することができます。
しかし、ある証券取引所では原株式の米国預託証券が上場され取引がなされているとなりますと、
他のどの証券取引所であっても原株式の米国預託証券を売却することはできません
(すなわち、まさにその証券取引所でのみ原株式の米国預託証券を売却することができます)。
どの証券取引所に上場され取引がなされていても、原株式は原株式なのです。
しかし、原株式の米国預託証券は原株式は異なる有価証券なのです。