2019年8月11日(日)


2019年8月10日(土)日本経済新聞 大機小機
親子上場に嵐
(記事)

 



2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計236日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜2019年4月30日(火))
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

各コメントの要約付きの過去のリンク その2(2019年5月1日(水)〜)
http://citizen2.nobody.jp/html/201905/PastLinksWithASummaryOfEachComment2.html

 

 



【コメント】
紹介している2019年8月10日(土)付けの日本経済新聞の記事(「大機小機」)は、
上場企業に支配株主がいる場合の問題点について議論がなされているのですが、
登場する3つの上場企業には、50%以下の株式しか保有していないのだが実質的に会社を支配している株主がいる、
ということで、そのことから生じる問題点について指摘がなされています。
言及がある3人の支配株主はいずれも、上場企業の議決権の40%〜45%を保有しているのですが、
個人株主は議決権を行使しない傾向にあるため、実質的に議決権の過半数を保有している状況にある、とのことです。
「意図的に50%以下の株式しか保有しない」という支配方法には、次の2つのメリットがあると記事には書かれています。

@全株保有に比べて少額の投資ですむ。
A上場が維持されるため、必要なら容易に株式を売却し、資金化できる。

そして、この記事の結論として、次のように書かれています。

>上場企業が他の上場企業を支配できる制度の改廃が強く求められる。
>他の企業を支配したいのであれば、速やかに完全子会社化すべきである。

私はこの記事を読んで、「創業者が所有株式を売却するための条件」を思い出しました。
私は以前、「現行の証券制度では、創業者は自由に所有株式を売却できる。」、というようなことを書きましたが、
昔聞いた話を色々思い出してみますと、完全に間違ったことを書いてしまっていたように思います。
ちょうどいい機会ですので、その時の訂正も兼ねて、
公開買付との関連も含めて、「創業者は所有株式を売却できるのか否か?」について知識の整理をしてみようと思いました。
次のような表を作成しましたので参考にして下さい↓。
「創業者は所有株式を売却できるのか否か?」については金融商品取引法の教科書にもあまり載っていない論点でして、
今日の表は、以前聞いた話を「確かこのような話だったはずだ。」と断片的に思い出しながら、作成しました。
最も重要な結論の1つは、1999年10月以前の伝統的な証券制度においては、創業者は上場後は所有株式を売却できない、
という点です(創業者は上場時に「売出し」という手段で所有株式を売却することしかできなかったのです)。
「創業者が支配株主として存在する上場企業は、創業者の議決権割合が一切変動することなく事業が営まれる。」、
という状態が制度上担保されてるのが1999年10月以前の伝統的な証券制度であったわけです。
1999年10月以前の伝統的な証券制度において、創業者が上場後は所有株式を一切売却できなかった理由は、
実はインサイダー取引になるからではなく、第一義的には「投資家保護」(つまり、株式の価値を一定に保つため)であった、
という考え方になると私は考えます(つまり、ある一定の議決権割合でもって会社は経営されなければならなかったわけです)。
1999年10月以前の伝統的な証券制度では、実はインサイダー取引は誰にとってもしたくても証券制度上できないことだったのです。
それから、表中にも注記を書いていることですが、現行の証券制度では「売出し」を行うことが免罪符のようになっています。
インサイダー情報を持っているなら「売出し」を行っても所有株式を売却してはならず(ここでの「売出し」には全く意味がない)、
インサイダー情報を持っていないなら全く自由に所有株式を売却してよい、というのが理論上の結論なのです。


新旧の証券制度における支配株主による所有株式売却の可否

「PDFファイル」

「キャプチャー画像」

 

 


Whether or not a controlling shareholder can sell his own share on the old and the new securities system.

新旧の証券制度における支配株主による所有株式売却の可否

 

A founder of a company both used to be a natural insider on the traditional securities system before October, 1999
and is a natural insider on the current securities system.
On the other hand, a tender offerer used to be an insider on the traditional securities system before October, 1999,
whereas a tender offerer is not always an insider on the current securities system.
And what is more, on the current securities system, a tender offerer will not always be an insider
after he acquires a majority of voting rights through a tender offer.
To put it simply, on the current securities system,
a founder of a company is an insider from the beginning to the end,
but a tender offerer can be an outsider from the beginning to the end.

会社の創業者は、1999年10月以前の伝統的な証券制度においても当然のインサイダーでしたし、
現行の証券制度においても当然のインサイダーなのです。
一方、公開買付者は、1999年10月以前の伝統的な証券制度においてはインサイダーであったわけですが、
現行の証券制度においてはインサイダーであるとは限らないのです。
そしてさらに言えば、現行の証券制度においては、
公開買付を通じて議決権の過半数を取得した後に公開買付者がインサイダーになるとは限りません。
簡単に言えば、現行の証券制度においては、会社の創業者は最初から最後までインサイダーなのですが、
公開買付者は最初から最後までアウトサイダーであることがあり得るのです。

 

The fact that "a person was a shareholder before a listing of a company
(a person has been a shareholder since before a listing of a company " is
the most critical criterion for judging whether the person has insider information on the company in him.

「会社の上場前は株主であった。(会社の上場前から株主である。)」という事実は、
会社に関するインサイダー情報を持っているか否かを判断する最も決定的な基準なのです。

 

On the current securities system, even a controlling shareholder can sell his own share quite without restriction
as long as he doesn't violate the regulation of an insider trading.
What is critical is not whether a shareholder is a founder but whether a shareholder has insider information in him.

現行の証券制度では、インサイダー取引規制に触れない限り、支配株主でさえ所有株式を全く自由に売却することができるのです。
局面を左右するのは、株主は創業者か否かではなく、株主はインサイダー情報を持っているか否かなのです。