2019年8月8日(木)



2019年7月31日(水)日本経済新聞 公告
公開買付開始公告の訂正公告についてのお知らせ
株式会社エイチ・アイ・エス
(記事)




 

2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計233日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜2019年4月30日(火))
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

各コメントの要約付きの過去のリンク その2(2019年5月1日(水)〜)
http://citizen2.nobody.jp/html/201905/PastLinksWithASummaryOfEachComment2.html

 

 

 



【コメント】
今日はまず最初に、英文の訂正をしたいと思います。
「簡単に言えば、取締役会決議がなければ契約書に署名ができないのです。」という意味の
英文を次のように書きました。

>To put it simply, without a resolution of a board of directors, you can sign a contract.

英文中の"can"は"can't"の間違いです。
"can"か"can't"かでは意味が正反対になってしまいます。
正しくは次の通りです。

To put it simply, without a resolution of a board of directors, you can't sign a contract.

取締役は、取締役会決議を取った後に契約書に署名することになります。
取締役は、取締役会決議がなければ契約書に署名ができません。
そして、例えば資産の譲渡益の金額は、取締役会決議によってではなく、より正確には契約締結によって確定します。
自社で取締役会決議を取ったというわけでは、取引の相手方の同意を得たことにはなりません。
さらに言えば、資産の譲渡益の金額は、契約締結によってではなく、厳密には資産の引き渡しによって確定します。
契約というのは将来に取引を行うことの約束ですから、
実際に取引を行う前に条件変更その他が生じるということは現実にあり得ます。
お互いに納得・同意をしたことですので、基本的には当初締結した契約の通りに取引は行われていくと考えても間違いではない
(通常は、途中で契約内容を変更することを前提に契約を締結するということはしない)のですが、
資産の譲渡益の金額は、やはり厳密には資産の引き渡しによって確定すると考えなければなりません。
他の言い方をすれば、資産の譲渡益の金額は、
法律上は契約締結によって確定し、会計上は資産の引き渡しによって確定する、という考え方になります。
「業績予想」という文脈では、
まだ資産の引き渡しは行っていない取引(まだ仕訳は行っていない取引)を「業績予想」に含めることになるわけですが、
まだ契約締結に至っていない取引を「業績予想」に含めるのは間違いなのではないかと私は思います。
概念的な話になりますが、一言で「業績予想」と言っても、
どの範囲の事柄を(どの段階まで進展した商談を)「業績予想」に含めるかすら明確ではないところがあると思います。
確かに、ある1会計年度の業績(財務諸表の数値)を予想するということではあります(予想の対象とする期間自体は明確)が、
事業運営の全てが安定的かつ経常的("stable" and "ordinary")であるのなら予想を行う上である意味何の問題もないのですが、
現実には不規則かつ臨時的("irregular" and "extraordinary")な取引を行うことも実務上は想定されます。
その時、ある事柄(ある商談)を「業績予想」に含めるか否かで「業績予想」の数値が変わってくるわけです。
将来に予定をしているある取引が、当会計年度内に完了するかもしれないし次期会計年度までずれ込むかもしれない、
という場合(どちらになるかは今後の商談の進み具合次第であるという場合)、算定される「業績予想」が2つあることなります。
会社は、「当該取引が当会計年度内に完了する場合の業績予想」と「当該取引が次期会計年度までずれ込む場合の業績予想」、
どちらを当会計年度の「業績予想」として開示をするべきでしょうか。
有価証券上場規程上も、どの範囲の事柄を(どの段階まで進展した商談を)「業績予想」に含めるべきかは判然としないでしょう。
これは詰まるところ、「蓋然性」の問題であるわけです。
会社は、より可能性が高いと考えられる方を当会計年度の「業績予想」として開示をするしかないのです。
正確な「業績予想」を行うのは、投資家にとってだけではなく、会社にとっても現実には非常に難しいのです。

 

 



次に、紹介している「お知らせ」についてです。
これは2019年7月31日(水)付けの日本経済新聞に掲載されていた「公開買付開始公告の訂正公告についてのお知らせ」です。
この「お知らせ」は公開買付者が掲載した「お知らせ」であるわけですが、
簡単に言いますと、「以前提出した法定開示書類に訂正を行いましたので、訂正内容についてEDINETにて閲覧を行って下さい。」
と公開買付者は市場の投資家にお知らせをしているわけです。
一言で言いますと、公開買付者は法定開示書類を提出する時も「お知らせ」を日刊新聞紙に掲載しなければなりませんし、
その訂正を行う時も「お知らせ」を日刊新聞紙に掲載しなければならないわけです。
なぜならば、「お知らせ」が日刊新聞紙に掲載されなければ、
市場の投資家は書類が提出されたこと自体を知ることができないからです(つまり、EDINETにアクセスする必要性に気が付かない)。
私は昨日、次のように書きました。


>especially on the current securities system, a subject company must make the related "advice" appear in a daily newspaper
>when it submits a position statement and a tender offerer's answer in addition to the submission itself of the document.

>特に現行の証券制度においては、対象会社は意見表明報告書や対質問回答報告書を提出する時には書類の提出そのものに加え
>関連する「お知らせ」を日刊新聞紙に掲載しなければならないのです。


現行の証券制度では、対象会社は、意見表明報告書を提出する時も対質問回答報告書を提出する時も、
「お知らせ」を日刊新聞紙に掲載してはいません(金融商品取引法にその旨の規定がない)。
対象会社が意見表明報告書を提出することは現在では金融商品取引法上の義務となっていますし、
また、なにより、応募に関する投資判断に資するのは公開買付届出書ではなく現実には意見表明報告書の方である、
という言い方ができますので、証券制度上意見表明報告書の提出に際しても「お知らせ」が日刊新聞紙に掲載されるべきなのです。
そして、法定開示書類の「訂正報告書」の類を提出する時も、書類提出者はその旨の「お知らせ」を日刊新聞紙に掲載する、
という考え方をしなければなりません。
総じて言えば、どのような種別の法定開示書類であれ、書類提出者が金融庁(EDINET)に書類を提出したというだけでは
市場の投資家は書類が提出されたという事実を知ることはできない(結果、提出された書類を閲覧することができない)のです。

 

 



2019年8月7日(水)日本経済新聞
ミャンマー株 外国人に解禁 持ち株35%容認、未上場市場も新設 相場低迷 資金流入狙う
目標はベトナム 2証取で745社上場
(記事)



 

【コメント】
紹介しているミャンマーの証券取引所に関する記事は、2019年1月5日(金)のコメントで紹介した2018年6月23日(土)付けの
日本経済新聞の記事(新会社法、8月に施行 ミャンマー、外資規制緩和)と関連がある記事なります。
2019年1月5日(金)のコメントでは、ミャンマーの会社制度や証券制度について書いていますので、
2019年1月5日(金)のコメントも合わせて読んで下さい。
記事の冒頭を引用します。

>ミャンマーがヤンゴン証券取引所の活性化を急いでいる。
>年内にも外国人の持ち株比率を35%まで認めて資金流入を促すほか、未上場株市場も新設し資本市場の裾野を広げる。

ミャンマーの公用語や法制度については全く詳しくないのですが、記事を読む限り、
ミャンマーの上場企業に関する法制度は、日本と同じように、@会社法とA金融証券取引法の2本立てになっているのだと思います。
すなわち、@会社法とA金融証券取引法とを一体化した法律である「上場会社法」がミャンマーにあるわけではないのだと思います。
結論だけ言いますと、ミャンマーでは、2018年8月1日に外資規制の緩和を盛り込んだ新会社法が施行されたわけですが、
この時の会社法改正では、非上場企業が外国企業や外国人から出資を受ける際35%までは「国内企業」という取り扱いを
受けるようになる、という改正であったわけですが、今後は(今年中にも)上場企業が外国企業や外国人から出資を受ける際
35%までは「国内企業」という取り扱いを受けるようになる見通しとなっている、ということになります。
ミャンマーでは、現在は外国企業や外国人が上場株式を購入することが自体が証券制度上できないわけですが、
今後は(今年中にも)銘柄ごとに最大35%まで外国企業や外国人が上場株式を購入することができるようになる見通しとなっています。
ただ、この外国人投資家からの証券投資の解禁に関する問題点については、2019年1月5日(金)のコメントで既に書いています↓。

>ただ、今後は外国人投資家がミャンマーの証券取引所に上場している株式を購入することができるように法制度が変わっていく
>予定となっていますので、いざそうなった場合は、上場企業に関しては「35%以下の出資」という閾値は意味がありません。

「証券制度上、上場企業への外資による出資比率は『35%まで』とする。」、という外資規制は証券制度上は
実は導入のしようがないわけですが、詳しくは2019年1月5日(金)のコメントを読んで下さい。
ただ、思い起こしますと、日本における1999年10月以前の伝統的な証券制度では、株主(投資家)の属性を問うていたわけです。
「上場制度では株主の属性を制限するという考え方はない(その考え方は上場の概念に反する)」とこの時のコメントで書きましたが、
改めて考えてみますと、「上場企業への外国人投資家による出資比率は35%までとする。」という制度設計は、理論上も実務上も
可能と言えば可能だと考えるようになりました(外国人投資家が出す買い注文を約定させないことは制度上は可能でしょう)。
例えば、現在日本でも、国家安全保障と関連がある分野の上場企業では、外国人投資家による出資比率が現に制限されています。

 

 


2019年1月5日(金)のコメントを今改めて自分で読み返しているのですが、日本の現行の証券制度を所与のこととするならば、
やはり理論的には正しいこと(他の言い方をすれば、日本の現行の証券制度の理論的枠組み・基礎概念)を書いていると思います。
しかし、外国人投資家による出資比率に制限を課するという証券規制も考えられると言えば考えられるのかもしれない、
という気もしてきます。
この点についてあれこれ考えを深めていましたら、ふとあることに気が付きました。
それは、「外国人投資家からの出資は『35%まで』である。」という証券規制には2つ意味合いがある、ということです。
つまり、@外国人投資家総体(外国からの投資)に規制を課するという意味と、Aある1人の投資家に規制を課するという意味です。
ある1人の外国人投資家Aにとっては結局「35%まで」しか株式を所有できないという状況に変わりはないのですが、
その理由が上記@の場合と上記Aの場合とでは「差別のされ方」が異なるわけです。
端的に言えば、@外国人投資家総体(外国からの投資)に規制を課するのは認められる証券規制であるが、
Aある1人の投資家に規制を課するのは認められない証券規制である、という考え方になると私は考えます。
私が言いたいことを図に描いてみましたので理解のヒントにして下さい。

「@外国人投資家総体(外国からの投資)を差別するのは認められるが、Aある1人の投資家を差別するのは認められない。」

「外国からの投資は35%までしか認められません。」と言われるのと、
「あなたからの出資は35%までしか認められません。」と言われるのでは、人として本質的に異なるものを感じるわけです。
外国からの投資を"discriminate"するのかある1人の投資家を"discriminate"するのかは、本質的に異なるように感じるわけです。
日本の現行の証券制度においても、@外国人投資家総体(外国からの投資)を差別するのは認められる部分もある
ように思いますが、Aある1人の投資家を差別するのは明らかに認められない、と私は考えます。
2019年1月5日(金)のコメントでは、(日本の現行の証券制度における)「株式市場の基礎概念」から
「上場制度では株主の属性を制限するという考え方はない(その考え方は上場の概念に反する)」と書いたわけですが、
日本における1999年10月以前の伝統的な証券制度と日本における現行の証券制度の中間地点に、
現実的なこと(国家安全保障上の事柄等々)を鑑みた実務上の証券制度(例えば、このたびのミャンマーの証券制度)がある
ということなのだろうと思っているところです。

 

There are two types of "investor discrimination" in a securities system.

証券制度には、2種類の「投資家差別」があります。

 

The securities authorities of Myanmar may say to a foreign investor who has doubts about the securities system,
"We don't discriminate you. We just discriminate a foreign investment."

ミャンマーの証券当局はミャンマーの証券制度に疑問を持っている外国人投資家にこう言うかもしれません。
「我が国はあなたを差別しているのではありません。我が国は外国からの投資を差別しているだけなのです。」と。